エビデンス(科学的根拠)の提示と説明、合意を重視した診療をモットーといたします。具体的に例を挙げてご説明いたします。
※エビデンス(科学的根拠)とは、統計学に基づいて有効であると証明された内容、学会などが定めたガイドラインなどを示します
患者さんと向き合って健康診断で血圧が160/100と高いことを指摘され来院された患者さんが、「血圧が高いと危ないので薬を飲んでください」と、いきなり医師から言われても納得はできないと思います。
「血圧が高いのはなんとなく怖いけど、薬を飲み始めると死ぬまで飲み続けないといけないのでどうすればよいのか」と戸惑う方も多いと思います。
そもそも血圧が高いとはいくつのことを言うのか、血圧は時間とともに変動しているが、どの時点の血圧を選ぶのか、などの疑問もあると思います。
仮に、本当に血圧が高いという評価になったとしますと、次には、今後どの程度の血圧をどのくらいの期間放置しておいたら、どのくらいの確率で心筋梗塞や脳卒中が起きうるのかということに話が入っていきます。
実際に目の前にいらっしゃる患者さんが、このまま高血圧を10年放っておいたらどのくらいの確率で脳卒中になるのか、薬や運動、減塩などで130/80まで血圧を下げるとその確率はどうなるのか、などについて科学的根拠にもとづいて解説し、その上で患者さんと共に今後どうしていったら良いのかという合意づくりをしていきます。
人生観は人それぞれで、患者さんが60歳として、あと10年生きられればいいという方と30年は健康に生きたい方とでは、提供すべき医療は異なるかもしれません。ただ、10年でよいという人にも、脳卒中になれば10年間不自由な生活を強いられる可能性があることも知っていただく必要があります。
科学的根拠に基づいた説明を科学的根拠は、統計学に基づいた疫学研究が中心となります。世界中に信頼できる研究が数多く存在しますが、日本にも九州の久山町という町で55年も前から、生まれてから死亡するまで町民のほとんど全員が参加する久山研究という貴重な疫学研究などがあります。
血圧は1日の"平均血圧"が130/80を超えると心臓や脳の動脈硬化が年齢以上に進むことがわかっています。その上で、平均血圧をどうやって推定したらよいのかなどについて知っていただく必要があります。
平均血圧を推測するために、2週間程度、家庭血圧を朝・夜と測定していただきます。とりわけ早朝血圧が大きな意味をもつことの理由もご説明します。場合によっては携帯血圧計で24時間の血圧測定を行い、1日の血圧の動きを測定していきます。
治療をするしないにかかわらず、現在からだの中でどの程度動脈硬化が進んでいるのかを評価するために、どのような検査が役立つかなどについても知っていただく必要があります。血管内皮機能検査や頸動脈エコーなど有効な検査を行い現在の血管の状態を把握することも大切ですし、治療や運動によって血管の状態が改善するかどうか、経過を追ってみていくことも治療のモチベーションのために大切です。
また動脈硬化を起こす危険因子は高血圧以外に、高脂血症、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群、喫煙、最近話題になっています高血糖スパイクなどがありますので、これらを評価することも大切となります。これらの危険因子は単独で存在するよりも2つ3つと重なることによって、動脈硬化は加速的に進行しますので、すべての要素について評価をしておかなくてはなりません。
治療は薬のみで行うものではありません。最近、画期的な論文が米国心臓病学会から発表されました。1日に5分か10分でも運動すると、しない人に比べ死亡リスクが30%低く、脳卒中や心筋梗塞による死亡リスクを45%低くすることがわかりました。
これまでも運動が心臓病や脳卒中、風邪などにかかる可能性を減らすということはなんとなくわかっていましたが、ここまではっきりと寿命を延ばすということがわかり、この発表をみて山下は思わず手をたたきました。患者さんにこのデータを見ていただければ、運動したいというモチベーションが高まるからです。また、私も自信をもって運動をお勧めできるからです。
このように科学的根拠に基づいて説明をし、納得をしていただき、正しい情報を患者さんと共有し合うことが大切であると考えています。
お子さんの場合次は、お子さんの例ですが、小さいお子さんが来院され、発熱が3日、4日続いたり、元気がない、機嫌が悪いなど、いつもの風邪とは違うようにみえ、心配なことがあります。こういう場合、頭の片隅に置いておかないといけないことは命に係わる怖い病気の存在です。今現在の元気さ、機嫌、食欲はどうか、この間の経過すなわち少しづつ改善しているのか悪化しているのか、などの状況を考慮しつつ、髄膜炎、敗血症、脳炎、心筋炎、川崎病など重症疾患の可能性を考える必要があるかどうかの検討をしなくてはいけません。
お子さんの経過、症状、身体所見や血液検査でそれぞれの病気をある程度絞り込むことができますので、その説明をお母様に行います。診断や治療に関してのガイドラインのある疾患については、それに基づいて、現在その病気の可能性をどの程度考えなくてはならないのかということもご説明します。
そのうえで、もうしばらく経過をみるか、安城更生病院小児科など専門医にご紹介するか、などのご希望をお聞きしながら、今後の方針を決定していきます。鼻や咳などの風邪症状がない発熱であれば、風邪らしくないため、余計に注意が必要であることなどもお伝えしなくてはいけません。
医師といえども、診療の場面で診断や治療の選択に対して不安を感じることもあります。丁寧な診察をして、考えうることを率直にご説明することが大切であると思っております。
話が変わりますが、お子さんの場合には、ワクチンの効果と副作用、メリットとデメリットについて、きちんと科学的根拠に基づいてご説明する必要があります。とかく日本では、副作用だけが強調されてワクチンはできるだけ打たないで自然に免疫をつけるのがよいとの偏った考えかたをされるお母さまもいらっしゃいます。そこまで極端ではないにしても、副作用が心配でワクチン接種をためらってしまうというお母さまも多いのではないかと思います。
もうひとつ、年齢別に起こりやすい不慮の事故についての啓蒙活動が大切であると考えています。実は1歳から15歳までの小児では、どの年代でも死亡原因の1位か2位に不慮の事故が入っています。こういった事実や予防策をお母様にお伝えするのもホームドクターの役割であると考えています。
なぜ病気とは一見関係のない、ワクチンや不慮の事故についてのお話をするかといいますと、重症の病気によって危険にさらされる確率と同じくらい高い確率でお子様を危険な状況にさせてしまう可能性があることだからです。
安心と信頼の医療をもう一つ例を挙げます。ガンになったら長く生きられないし、治療が苦しいだろうから、がん検診は受けたくない、あるいは自分はもう年だからがん検診は不要だと考えている方が来院されたとします。
日本人は男性で2人に一人、女性で3人に一人がガンになる時代です。一方、ガンになっても60%の方はいったん治ります。
乳がん、子宮頸がん、大腸がん(おそらく胃カメラ検診やピロリの除菌も)の検診は寿命を延ばすことが、世界中の統計で証明されているがん検診であるということを知っていただくことも大切です。
大腸がん検診は便の検査を2回提出するものですが、大腸がん検診を毎年うけている人は、75%程度治療可能な段階でガンを見つけることができます。
こういった基本的な情報を共有したうえで、ガン検診について患者さんと話し合っていくことが大切であると考えています。
やました内科小児科クリニックでは患者さんとともに、つねに科学的根拠のある説明と同意をしっかりと形成し、納得・安心・信頼していただける医療の提供を行ってまいります。
そのうえで、医療側と患者さんとの関係はもちろん、患者さんどうしも家族のような温かい関係をつくっていけたら嬉しいと願っております。